陳列

Open the grave.

産後一年が過ぎた

私はもともと反出生主義者で、子供を産まずに人生を終えるものだと思ってたけど、音楽活動へのモチベーションの消失、長年勤めていた職場とのゴタゴタ、患っていたチョコレート嚢腫が治ってピルを飲むのをやめたことなど、色々なことが重なって娘を授かった。どれか一つでも欠けていて、たとえばあと一年早かったりしたら、私は産むのを躊躇っていただろう。でも、33歳という年齢のこともあり、これを逃したら次は無いという気がして、産むことにした。

産後一年が経ち、娘が一歳になって思うことは、あの時授かることができてよかった、この子に会えてよかった、生まれてきてくれてありがとうに尽きる。ベタすぎるが。

若い頃やれ反出生主義だ独我論だとイキりちらしていたアーティストが、子供を産んだ途端、子供はいいぞなどと急に手のひらを返すように凡庸なことを言い出すのを見て、私は舌打ちし心の底から彼らを軽蔑したものだけど、やあ、私もそうなってしまったね。くだらないと笑ってください。

でも私は自分が子供を産んでよかったからと言って、人に勧めたりはしません。

矛盾してるのは百も承知だけど、私は今も反出生主義者だと思っている。有から無よりも、無から有の方がとりかえしがつかないから。だけど、昔と違うのは、絶対に何が何でも出生は悪と言い切る必要はないんじゃないかと思えるようになった。

トートロジーっぽくなるけれど、私は娘を産んだことで初めて「生まれてきてよかった」と思った。33年の人生で「生きててよかった」は何度かあったが、「生まれてきてよかった」は一度たりともなかった。どんなに嬉しいことがあろうが幸せを感じようが、先に立つ感情というか前提は常に「生まれてさえこなければ」だった。こんな反出生主義の私が、娘を産んだことによって「生まれてきてよかった」を知ることができた。主義と真逆のことを成し得てしまえることが人生の偉大さであるとはシオランの言葉だったかな。

かっこつけたことを言うのはここまでにして、私は自分が子供を産んでよかったからといって人には勧めない。

私がよかったのはあらゆる意味でたまたまだったと思うから。一番は、私の人生があの時ちょうど転機にさしかかっていたからであり、身もふたもない言い方をすれば私は“詰んでた”のだ。つまり、あれ以上あのまま突き進んで生き続けても良くはならないということが確定していた。だから、妊娠した時にこれまでの人生とは全く違う方向に舵を切る気になれたし、殆ど躊躇いもなかった。二番目は、私の妊娠出産が順調で、娘に何の病気や障害もなかったから。妊娠中から長期入院を強いられたり、流産や死産になってしまったり、生まれてきた赤ちゃんが重い病気になってそのままNICUに入院したり、先天性の障害を持っていたり。こういうことは誰の身にも起こり得ることで、今回私に起こらなかったのは本当にたまたまでしかなく、もし一つでもこういうことが私の身に降りかかっていたら、私は果たして「授かることができてよかった」と気楽に言えるだろうか。分からない。要するに、私は幸運にも色んなことがうまく噛み合ったから呑気に「子供を産んでよかった」などと言っているだけな気がしてしまうのだ。産んでもなお、これってリスクがとてつもなく大きい博打だよな、と思ってしまう自分がいる。だから、人には勧めない。

だけど、そんな私が私なりに、産んでよかったこと、悪かったことをまとめてみたら、もしかしたらこの産む・産まない問題で悩んでいる誰かの手助けになるかもしれないと思ったので、書いてみます。

子供を産んでよかったこと

1.子供が可愛い

まあ、当たり前ですよね。子供産んだ人ってみんなこう言う。くだらなすぎる。くだらなくていいです。だけど、本当に自分の子供って可愛い。大変だけど可愛い、ってみんな言うじゃん。私は前はあれ聞くたび「結局大変なんじゃん」って絶望してたけど、産んだ今思うことは、みんな大変なことを強調しすぎ。もっと後ろの可愛いを強調しろ。そっちが真実。

2.自意識に余計なリソースを割かなくなった

「私とは何か」「私は世界にとってどんな存在か」「私はどれだけ価値のある人間か」「私は他人からどのように見られているか」…こういうことを始終考えていて私私私でがんじがらめになっていた今までの私、子供産んだら憑き物が落ちたかのように自分がどうでもよくなった。や、よくはないけど、程度的にものすごくマシになった。自分のことばかり考えなくていいって、こんなに楽なのねと。今私人生で一番自意識が身軽。

子供を産んで悪かったこと

1.夫との仲が悪くなった

うちは夫婦仲めちゃめちゃ良かったし、結婚してから長かったから、産後クライシスなんか他人事って思ってたけど、見事に陥ってしまった。本当に嫌なタイプの喧嘩をするし、二人とも体力・精神力が子供持つ前と比べて明らかに余裕無いのですぐに激化してしまう。産前の激化までの時間が10だとしたら、今は1。とにかくこの産後クライシスが深刻すぎて、私はこれ以上夫と仲が悪くなりたくないので、正直子供は一人でいいと思っている。だから、子供は結婚の副産物で、とにかく配偶者のことを第一に考えたくて、夫婦が幸せであることが至上、と信じてやまない人は子供は持たない方がいいと思う。そういう幸せも絶対にある。(どんだけ深刻なんだよ)

2.日常的なストレス解消方法が基本的に食しか無い(完全母乳で育てても体重が戻らないし当分このまま)

子供産むと子供が生活の中心になるので、自分のタイミングで寝たり起きたりするのも無理(睡眠がストレス解消たりえない)だし、出掛ける場所も大きく制限されるから気軽な気分転換もできない。唯一自由になるのが食。食べることがストレス解消だし気分転換だしガス抜き。だから全然痩せず、体重は妊娠前+5キロのまま。母親も同じタイプだったので、よっぽど特殊な努力でもしないかぎり向こう10年はこのままだと思う。でも、よかったこと2に書いた通り、人からどう見られるかを気にしなくなっているので自意識的な後ろめたさや恥ずかしさはあまり無い。あとは夫がそんな妻をどう思うかということのみ…。

思いついたらまた書きます